適度なカロリー制限をすると長寿になるという研究は広く知られています。
例えばアメリカのウィスコンシン大学では、猿を対象とした「食事量と寿命の関係」についての研究を20年以上行っています。その結果、カロリーを制限した猿の方が、見た目が若々しくて長寿であることがわかりました。その因果関係についてはまだまだ研究の途中ですが、食事制限をすると長寿遺伝子と呼ばれるサーチュイン遺伝子が活性化するからであるともいわれています。
適度なファスティング(断食)は身体にいいし、ダイエットにもなるということからファスティングダイエットというものも流行しています。
食べ過ぎよりはカロリーを制限した方が健康的というのはなんとなくわかりますが、カロリー制限の皮膚に対する効果はあまり知られていません。
食べる量を少なくすれば、それだけ栄養も不足することになります。単純に考えれば、髪の毛に良い影響を与えるとは考えにくいですが…実際はどうなのでしょうか?
カロリー制限すると育毛になる!?
先ほど紹介したウィスコンシン大学の猿を使った実験と同様に、マウスもカロリーを制限をさせることで長生きします。コーネル大学の研究によると、カロリー制限でマウスの寿命が40%の伸びたことが確認されています。
ブラジルのサンパウロ大学では、マウスを使ってカロリー制限が皮膚に及ぼす影響を調べました。
その結果、カロリー制限によって体毛が濃くなることが確認されました。
実験では食事制限をせずに食べたいだけ食べさせたマウスと、摂取カロリーを60%に制限したマウスを半年間観察しました。
その結果、当然のことながらカロリー制限マウスの体重は減り、体脂肪も少なくなりました。それと同時に、食事制限マウスの体毛は濃く、長くなったのです。
カロリー制限の影響によるマウスの変化は驚くべきものでした。
皮下脂肪が少なくなりましたが、その分表皮は分厚く変化しました。さらに皮膚にある毛包幹細胞が大きくなり、毛包の成長や保持率が向上したのです。
血管新生が活性化し、皮膚にある血管の量が3倍にもなりました。それに加えて、皮膚細胞の新陳代謝も活性化しました。
このような細胞の変化の原因については、まだまだ正確に判明しているわけではありませんが、研究者は体温保持のための変化だと予測しています。
カロリーを制限すると皮下脂肪が減少し、体温の保持が難しくなります。そのため寒さに適応するために、毛包の活動が活性化して体毛を伸ばそうとする。それと同時に皮膚の血流が増加したり、皮膚が分厚くなるのです。
血流増加も濃くなった体毛も、体温を維持するために重要な役割を持っています。
体温保持のため、毛包幹細胞を増加増加させて発毛を促す。
毛細血管の増加で酸素や栄養の供給が促進されるのと同時に、血流増加によって皮膚温度の低下を防ぐ。
体脂肪が減ったマウスは「このままではヤバい!!」と思い、体温を維持するために皮膚を環境に適応させたといえるでしょう。
また、皮膚の老化は皮膚が薄くて脆弱になることも原因のひとつであるので、カロリー制限は皮膚の老化を防ぐ可能性もあるといえるでしょう。もちろん、皮膚が若々しければ、皮膚から生えてくる髪の毛も若々しくコシのある状態になります。
…でも、このマウスの実験は、そのまま人間にも当てはまるのでしょうか?
参考文献:Caloric Restriction Promotes Structural and Metabolic Changes in the Skin(CellReprts)
究極のファスティング育毛法とは!?
マウスは成長が早く、繁殖も容易なため、多くの生理学的な実験に利用されています。もちろん、育毛剤の臨床実験にも毛を剃ったマウスが使われています。マウスの体毛が生える仕組みも、人間の毛髪が生える仕組みも、それほど大差ないからです。
では、人間もマウスと同様に食事制限をすれば髪の毛が生えてくるのでしょうか?
…この実験に関して言えば、そうとは限らないでしょう。
カロリー制限したマウスは皮下脂肪が少なくなることで、体温を維持するために皮膚が厚くなり、血管量も増え、体毛も増加しました。
でも、そもそも人間はマウスのように体温の維持に体毛を利用していません。
寒いときは服を着るし、暑いときは薄着をします。
痩せて皮下脂肪がなくなった影響で寒いのなら、ちょっと厚着をすればいいだけの話。もしそこでマウスと同様の反応が起きるのなら、髪の毛どころか全身の体毛が濃くなってしまうでしょう。
また、人間は発汗によって体温を調節できるけど、マウスはそういった体温調節機能を持っておらず、その殆どを体毛に依存しています。
そのため、体温を維持するためにも体毛の増減が激しく変化する可能性もあります。あくまでも個人的な予測ですが、人間は少しくらい体脂肪が減ったり、寒い環境が続いたからといって、マウスほど激しく体毛の状態は変わらないと考えられます。
とはいえ、カロリー制限がまったくの無駄ということはないと思います。
人間もたっぷりと食事をするとさまざまな健康上のリスクにさらされますが、ある程度の食事制限をすると健康で長寿になることは、さまざまな研究からわかっています。
カロリーを制限して適度な飢餓状態にあると、造血幹細胞が増加して白血球が増え、免疫機能が活性化します。
空腹の状態にあるとサーチュイン遺伝子が活性化し、脳の機能が向上したり、肌の老化を防ぐ効果もあります。
多くの動物たちと同じように、人間も満腹まで食べるよりも食事制限をした方が健康に生きられるのです。
いつまでも健康で肌も若々しかったとしたら、それは当然、薄毛の予防や発毛にもつながるでしょう。
具体的には、日々の食生活で70%ほどの食事制限をするのが有効です。
先ほどのマウスの実験では60%に制限しましたが、それではエネルギーが足りなくなってしまうかもしれません。
もちろん「腹八分目に医者いらず」と昔からいわれるように、80%の食事制限でもいいと思いますが、適度な飢餓感を感じるには70%が効果的でしょう。
食事制限といっても、ただ単純に食事の量を減らすのではなく、ちゃんと栄養バランスに気を付けるのは基本です。栄養バランスが崩れたとしたら、髪の毛にも悪影響を及ぼすかもしれませんし、まったくの無意味。
もしバランスよく栄養を摂取で着ないようならサプリメントなどでサポートするのも有効です。
しっかりと栄養を取りつつ、全体の食事量を減らせば、白髪や薄毛の予防になるし、身体も軽くなり、健康長寿を実現できるかもしれませんね。